MYoACT は、たった 1 本の動画から人の動作を解析し、関節角度や姿勢の数値を瞬時に出力してくれます。その手軽さや精度は驚くべきものです。しかし、多くの MYoACT ユーザーが直面するのは、この数値の「その後」です。
数値をどう解釈したらよいか——MYoACT ユーザーの共通の課題

MYoACT により、動作の関節角度・床反力・筋活動などの数値の取得が容易になりました。しかし、「その数値をどう解釈したらよいのか」「どう改善すればいいのか」という問いに対する答えは、専門家の知識と経験に依存していました。
スポーツ科学の世界では、動作分析は論文や研究データと照らし合わせて初めて意味を持ちます。しかし、その知識を手に入れ、自分の数値と比較し、改善策を導き出すには、膨大な時間と専門知識が必要でした。
そこで、株式会社 ORGO では、MYoACT と ChatGPT を組み合わせることで、この「数値から実践的なアドバイスへ」というギャップを埋める方法を社内で試してみました。この記事では、その試行錯誤の過程と、実際の使い方をご紹介します。
MYoACT × ChatGPT で実現する動作改善の 3 ステップ
ステップ 1:論文の探索
動作解析の第一歩は、その動作に関する「基準値」や「理想値」を知ることです。しかし、スポーツ科学の論文は膨大で、最新の知見を探すのは容易ではありません。
この課題に対する一つの解決策として、ChatGPT の DeepResearch 機能を活用することを提案します。
ステップ 2:実際の動作を MYoACT で解析
論文で基準値を調査したら、次は実際の動作を撮影し、MYoACT で解析します。
MYoACT で解析をするのは、動画をアップロードして、解析名、身長体重を入力するだけです。動画のトリミングなども UI 上で可能です。
MYoACT では、関節角度や姿勢、タイミングなどの数値データを CSV 形式で出力することが可能です。
ステップ 3:ChatGPT による解説とアドバイス生成
MYoACT から出力された CSV データと、DeepResearch で得られた論文情報を、ChatGPT に同時に提供します。
具体的なプロンプトの書き方や、効果的な活用方法について詳しく知りたい方は、お気軽にお問い合わせください。
実際に野球の投球動作で試してみた
今回は野球歴 20 年の Y さんに、動画の撮影にご協力いただき解析させていただきました。
Y さんのプロフィール
- 年齢:30 歳
- 所属:社会人硬式野球クラブチーム
- 野球歴:20 年
- ポジション:投手
- 利き手:右投げ
今回、MYoACT 解析&ChatGPT 解説で、以下のような解説が生成されました。
✅ エグゼクティブサマリ(つまり何?)
- 下半身のパワーは十分(特に右脚)で、全体の骨格ラインも良いです。右脚の縦方向の床反力は体重の約1.7 倍まで出ていて、「軸脚でしっかり地面を押せるタイプ」です。
- 骨盤〜胸郭の捻転差(セパレーション)の”量”は一流レベルですが、ピークがかなり遅く(ボールが出た後)に来ているので、「せっかくのしなりをボールに乗せ切れていない」=腕に頼りがちなフォームになっています。
- 前脚(左脚)のブレーキがリリース時点ではかなり弱いです。左膝角度は
- 着地時:約 69° 屈曲
- リリース近辺でも約 63° 屈曲と、かなり「沈みながら投げる」形になっており、MLB 投手に多い「45°→35° へ伸びながらブレーキ」のパターンより柔らかい着地です。→ 球速的にも、肩肘の負担的にももったいないポイント。
- **体幹の側屈(グラブ側への傾き)が大きめ(リリース付近で約 20〜27°)**で、骨盤・体幹の回旋がリリース後に一気に出てきます。これは一般に
- 球速は出やすいが肘の内側(UCL)・肩後方のストレスを上げやすいパターンとされています。
- まとめると、
- 良い点:右脚の踏ん張り+大きい捻転差=ポテンシャルは高い
- 課題:捻転のタイミングと前脚ブレーキが遅く/弱く、上半身(特に肩肘・腰)への負担が大きくなりやすい
- 改善の方向性:「前脚の壁を早めにつくる」「骨盤 → 胸 → 腕の順に、もう少し早いタイミングで回す」「側屈はやりすぎず、前傾で投げる」ことで、球速アップとケガのリスク軽減の両方が狙えるフォームだと考えられます。
1. 今回データから見たざっくりした時間経過
(時間は CSV の「時間」列、秒)
- 0.0〜0.9 秒くらい
- 両脚支持だが、右足の床反力 Z が最大で約 1.66× 体重(1325N 程度)
- 左足はほぼ抜けているので、しっかり右脚で「ため」を作れているフェーズ。
- 〜2.5 秒くらい
- 左足の床反力 Z はほぼ 0 → 左脚は空中
- 右脚のみで支持しながらワインドアップ〜ストライド。
- 約 2.77 秒(インデックス 83)
- 左足床反力 Z が一気に立ち上がる最初の大きなポイント → 前脚着地(フットコンタクト)と判断。
- この時点で:
- 左膝屈曲約 69°(結構曲がって着地)
- 捻転差(腰椎左回旋+胸椎左回旋)は約 7°(まだあまりひねりを使っていない)
- 約 2.67 秒(インデックス 80)
- 右肩内旋角が -55° で最小 → 肩の最大外旋(MER)付近。
- ここから急速に内旋方向へ回り始めます。
- 約 2.97 秒(インデックス 89)
- 左床反力 Z の初回ピーク(約0.51× 体重)
- 右肘屈曲角速度が最も伸展方向に大きく、右肩内旋モーメント・右肘屈曲モーメントも 2.9〜3.0 秒でピーク。→ ここをボールリリース付近とみなすのが自然です。
- この時点:
- 左膝屈曲 約 63°(まだかなり曲がったまま)
- 捻転差 約 30°
- 胸椎右側屈 約 -20°(グラブ側へ 20° の傾き)
- 3.1〜3.5 秒
- 胸椎右側屈の最小値(約 -27°)が 3.13 秒付近
- 捻転差のピーク 約 49° が 3.5 秒→ ボールが出た後に、体幹の捻りと側屈が最大になる。
- 4.2〜4.3 秒
- 左床反力 Z の真の最大(約1.02× 体重)+左膝屈曲が23°まで伸展→ 完全にフォロースルー〜ステップアウトの段階。
2. 良い点(このフォームの強み)
2-1. 右脚(軸脚)の「押し」が強い
- 右足の縦方向床反力 Z 最大値:約 1.66× 体重→ 右脚でしっかり地面を押し込めている証拠。
- 左床反力がほぼ 0 の時間帯に右床反力が高いので、「片脚でしっかり支えながら、ワインドアップ〜ストライドで加速できている」タイプです。
▶ 球速面の示唆
右脚からのエネルギー入力は十分なので、
あとは「それを前脚・体幹を通して腕にどれだけ効率よく伝えられるか」が勝負。
2-2. 捻転差(肩と骨盤のひねり)の”量”自体はかなり良い
- セパレーション(腰椎左回旋+胸椎左回旋)の最大値:約 48.6°(3.5 秒付近)→ MLB 投手の報告値と比べても、「量としては十分大きい」部類です。
- リリース近辺(2.97 秒)でも約 30°は確保できていて、体幹の回旋能力そのものは高いと考えられます。
▶ 球速ポテンシャル
「ひねりが足りない」のではなく、
ひねる能力はある → それを”いつ・どう解放するか”の問題になっています。
2-3. 典型的な「投げる筋」の活動パターン
筋活動はすごく荒く言うと:
- コッキング終盤〜加速期にかけて
- 右広背筋:0.3〜0.4 程度
- 右三角筋後部:0.4〜0.6 程度
- コア(特に右外腹斜筋)は 0.5〜0.7 程度まで上がるタイミングあり
と、
「背中側と肩後部で腕を引き、体幹の斜筋で捻りを支える」
という、教科書的なパターンになっています。
▶ **良い意味で『典型的な投手型の筋活動』**であり、
特定筋が全く使えていないという印象はありません。
3. 課題・リスクが出ているポイント
3-1. 前脚ブレーキのタイミング・強さが遅く/弱い
- 左膝屈曲角
- 着地(2.77 秒):約 69°
- リリース付近(2.97 秒):約 63°
- かなり後(4.27 秒):約 23°(このとき床反力 1.0× 体重)
→ MLB 投手の多くが
- 着地時 45° 前後
- リリース時 35° 前後まで伸びながら「壁」を作るのに対し、あなたは着地〜リリースの間であまり伸びず、リリース後かなり時間が経ってから一気に伸びている、というパターンです。
- リリース付近の左床反力 Z は約0.5× 体重程度で、右脚での最大 1.66× 体重に比べるとかなり小さい。
▶ 意味するところ
- 「右脚で作ったエネルギーを、前脚でしっかり受け止めて体幹・腕に伝える」前脚ブレーキが、一番欲しいタイミング(リリース前後)で弱い。
- その結果、
- 球速的にはロス
- 肩・肘には負担が集中しやすいという、少しもったいないフォームになっています。
3-2. 捻転差のピークが「リリース後」に来ている
- セパレーション
- フットコンタクト(2.77 秒):約 7°
- リリース付近(2.97 秒):約 30°
- ピーク(3.5 秒):約 49°
→ 本来「フットコンタクト直後〜MER〜リリース」にかけてピークを迎えたいところですが、
あなたの場合はリリース後も捻転差が増え続け、フォロースルーで最大になる形です。
▶ 球速面の課題
- 「投げ終わってから身体が回ってくる」
- せっかくの捻転をボールに乗せきれていない。
▶ ケガのリスク面
- 体幹の回旋が遅いと、その分
- 肩の内旋
- 肘の伸展に頼ってボールにスピードを乗せることになり、肩内旋トルク・肘の屈曲/外反トルクが増えやすいパターンです。
3-3. 体幹の側屈がやや大きく、肘・腰への負担が懸念
- 胸椎右側屈(右に+、左=グラブ側に − と解釈)
- リリース付近(2.97 秒):約 -20°(グラブ側へ 20° 傾き)
- 減速期(3.13 秒):約 -27°(グラブ側へ 27°)
▶ 一般的な知見と照合すると
- 20° 前後のグラブ側傾き自体は MLB にもよく見られますが、25〜30° を超えると肘の内側剛体モーメント(UCL 負荷)を上げやすいことが多くの研究で示されています。
- あなたはリリース直後〜減速期にかけてやや大きめの側屈が出ており、「肘の内側を痛めやすいフォーム寄り」と言えます。
また、胸椎伸展がリリース前後で30° 超まで増大しており、
腰椎も伸展 → 屈曲と大きく動いているので、
- 腰を反らせる+横に倒す
- その状態で高速に回旋する
という組み合わせから、
腰椎分離症・腰痛のリスクもやや高めと見ておいた方が安全です。
4. 肩・肘の負荷イメージ
- 右肩内旋モーメント:2.9〜3.0 秒でピーク(約 13)
- 右肘屈曲モーメント:2.9 秒付近でピーク(約 41)
このタイミングは
- 左床反力 Z:立ち上がり途中(まだ最大ではない)
- 捻転差:30° 程度
- 体幹側屈:-20° 付近
と重なっており、
「前脚・体幹がまだ完全には受けきれていない段階で、
肩肘のトルクがピークを迎えている」
という構図になっています。
ざっくりリスク評価
- 肩:
- MER 自体は極端ではなく、「柔軟性と筋力さえあればやっていけるレベル」。
- ただし体幹の回旋が遅いため、インナーマッスル・後方関節包への負担はやや大きめと推測。
- 肘:
- 大きめのグラブ側側屈+前脚ブレーキの弱さの組み合わせは、文献的に内側側副靭帯(UCL)を痛めやすい典型パターンの一つ。
- 腰:
- 胸椎伸展が大きく、腰椎の伸展・回旋も大きいので、疲労の蓄積で腰痛・分離症を起こしやすいフォームと考えられます。
5. 改善提案:球速アップ編
5-1. 「前脚の壁」をリリース前にもってくる
現状:
- 着地〜リリースで
- 左膝:69° → 63°(ほとんど変わらない)
- 左床反力 Z:最大 1.0× 体重だが、ピークはリリースのかなり後
目標イメージ:
- 着地:45〜50° 屈曲
- リリース:35〜40° 屈曲くらいまで伸びながらブレーキ
- リリース付近で左床反力 Z が0.8〜1.2× 体重程度まで上がっている状態
技術的なキュー
- 「左足が着いたら、左膝でブレーキをかけて、その上に体幹を被せるイメージ」
- 「左膝を”沈める”のではなく、着地 → 軽く沈んで → そこから伸び戻る」
- 練習ドリルの例
- ワンレッグランジ着地 → そのまま上半身を前に倒してストップ(膝を止める感覚)
- 軽いメディシンボール投げで、前脚で止めてから上半身を回す感覚づくり
5-2. 捻転差のピークを「フットコンタクト〜リリース」に引き寄せる
現状:
- フットコンタクト:セパレーション約 7°
- リリース:約 30°
- ピーク:リリース後(3.5 秒)で約 49°
目標イメージ:
- フットコンタクト直後:20〜30°
- リリース付近:40〜50°
- リリース後はむしろ捻転差が減っていくような形
技術的なキュー
- 「左足が着いたら、骨盤 → 胸 → 腕の順で早めに回す」
- 「特に”胸をホームに向けていく”タイミングを、今より0.1〜0.2 秒早くするイメージ」
練習としては、
- 前脚着地を決めた状態での
- メディシンボール・ローテーショントス
- サイドスロー気味のシャドーピッチで骨盤 → 胸 → 腕の順番だけを意識する
などが有効です。
6. 改善提案:ケガ予防編(肩・肘・腰)
6-1. 体幹の「側屈しすぎ」をコントロール
- リリース直後〜減速期で**-20〜-27° のグラブ側傾き**が出ています。
狙いたい方向性
- リリース時のグラブ側傾き:おおよそ 15〜20° までに収める
- 代わりに体幹前傾(前に倒す)を増やしてリリースポイントを前に持ってくる
キュー
- 「胸を横に倒すより、みぞおちから前に倒す」
- 「頭をキャッチャーミットに”前へ運ぶ”イメージ」
6-2. 腰の反り過ぎを抑える(腰椎保護)
胸椎伸展がリリース付近で 30° 超まで増えており、
腰椎も大きく伸展 → 屈曲しているため、
- 「腰を反らせて投げる」癖がある可能性が高いです。
対策の方向性
- 体幹トレーニングは
- プランク系(アンチエクステンション)
- デッドバグ、パロフプレスなど(アンチローテーション)で、「反らないで支える」力を優先。
- 技術的には
- 「胸を張る」のではなく、「みぞおちから前に折る」「お尻を少し後ろに引く」ようなヒップヒンジ寄りの感覚を持つ。
6-3. 肘への負担を軽減するために
肘内側のリスク要因として、
- 前脚ブレーキの弱さ
- グラブ側への側屈過多
- 捻転差のピークが遅い(腕に頼りがち)
の 3 つが重なっています。
優先順位としては:
- 前脚ブレーキ(5-1 の内容)
- 捻転タイミング(5-2 の内容)
- 側屈のコントロール(6-1 の内容)
この順で改善していくと、
球速を落とさずに肘の負担を減らせる可能性が高いです。
7. さらに出せる示唆・今後の活用アイデア
今回 1 球(または 1 動作)だけの解析ですが、
もし今後データを蓄積できるなら、こんな使い方もできます。
- 「良いとき/悪いとき」での比較
- 球速が出た球と、あまり出なかった球を比較して、
- 前脚膝角度
- リリース付近のセパレーション
- 左床反力ピークのタイミングを見比べると、自分なりの「当たりフォーム」を数値で言語化できます。
- 球速が出た球と、あまり出なかった球を比較して、
- シーズンを通したケガリスクモニタリング
- 疲れてくると
- 前脚ブレーキが弱くなる
- 側屈が増えるといった変化が出やすいので、「試合序盤 vs 終盤」「週の前半 vs 後半」で同じ解析をかけると、危険サインを早めに察知できます。
- 疲れてくると
- トレーニング介入の効果確認
- 例えば「前脚強化トレーニング」を 8 週間行った後、
- 左膝角度(着地〜リリース)
- 左床反力 Z のリリース付近ピークがどう変わったかを見ることで、「トレーニングが投球動作にちゃんと乗っているか」を評価できます。
- 例えば「前脚強化トレーニング」を 8 週間行った後、
まとめ
MYoACT と ChatGPT を組み合わせた分析を日常的に活用することで、「数値をどう解釈したらよいか」という壁を乗り越えられます。最新の研究と自分のデータを結びつけることで、より科学的な動作分析が可能になります。
MYoACT が数値を出し、ChatGPT がその意味を教えてくれます。MYoACT と ChatGPT を使って、ご自身の動作や、指導者としてクライアント様の動作改善につなげてみてはいかがでしょうか。